AIに渡す文脈を作る5つのノート【記入例付き】
AIに仕事の相談をすると、どこかで読んだような一般論が返ってきます。値上げを検討していると伝えれば「段階的に上げましょう」「既存顧客には配慮を」。間違ってはいないけれど、自分の状況にはまるで当てはまらない。
原因はAIの性能ではありません。判断に必要な背景を、こちらが渡していないからです。
では何を渡せばいいのか。ここでつまずく人が多い。全部を渡すことはできませんし、頭の中にあるものを相談のたびに言葉にし直すのは、単純に面倒です。結局、質問だけを投げて一般論を受け取ることになります。
必要なのは、先に書いておくことです。しかも5つで足ります。
すでにメモがある人ほど、ここでつまずく
情報がないとは限りません。スマホやDaily Noteには、すでにこんな断片が残っているかもしれません。
新規だけ上げる? 既存二社は維持 前回と同じ失敗はしない
人間は、書かれていない背景を思い出して読めます。AIにはそれができません。「上げる」のは何か、「前回」は何が起きたのかが分からないからです。
新しい情報を増やす前に、断片を判断に使える形へほどきます。
目標:新規案件では単価を上げ、少数の高単価案件へ移行する。
制約:既存二社の料金は今期中、変更しない。
過去の判断:以前、一律値上げで大切な顧客を失った。同じ方法は採らない。
「メモを整理する」とは、きれいに分類することではありません。自分にしか分からない省略を、ほかの相手にも判断材料として渡せる形にすることです。
なぜ5つなのか
AIの答えが一般論になるとき、欠けているのはたいてい次のどれかです。
- いま何を目指しているのか(目標)
- 何が変えられないのか(制約)
- 過去に何を試して、何がだめだったのか(決定ログ)
- 誰のための判断なのか(対象読者)
- どんな答え方をしてほしいのか(基準)
この5つを短いメモにしておけば、相談のたびに必要な部分だけを選んで貼り付けられます。作り込んだVaultも、完成したシステムも要りません。それぞれ数分で書ける長さで十分です。
以下、実際に埋めた例を示します。題材は、二人で運営するデザインスタジオが「新規顧客の料金を上げるべきか」を検討している場面です。構成だけ流用して、中身は自分の状況に置き換えてください。
5つのメモ
目標 — いま何を目指しているのか
達成したいことを、目標ひとつにつき1〜2文で。一度決めたら変わらない設定ではなく、あくまで現在地です。優先順位が変わったら書き直して構いません。
これがないと、AIは「売上を最大化したいのだろう」という一般的な前提で答えを組み立てます。
## 目標
- 今期は件数を増やすことではなく、少数の高単価案件へ移行する。
- 長期的には、毎月ゼロから始めなくて済むよう継続案件の基盤を作る。
制約 — 何が変えられないのか
予算、締め切り、人数など、すでに決まっていて選択肢を狭めている条件です。
これがないと、そもそも実行できない案が選択肢として並びます。
## 制約
- 長く取引している二社には、急な値上げをお願いできない。
- 二人体制のため、単価を上げても件数を増やす余力はない。
- 「手頃な価格」というブランドイメージがまだ残っており、大幅な値上げには説明が要る。
決定ログ — 過去に何を試したのか
判断を下した瞬間に、理由とセットで一行ずつ追加していきます。あとからまとめて書こうとすると、まず続きません。
これがないと、一度試して失敗した方法を、もう一度勧められることになります。
## 決定ログ
- 2026-03:一律の値上げを試したところ、残したかった顧客を失った。以後、一律値上げはしない。
- 2026-05:新規案件の見積もりを既存料金より20%高く出し始めた。今のところ反発はない。
対象読者 — 誰のための判断なのか
いま自分が誰のために動いているかを簡潔に。相手がクライアントなのか、社内チームなのか、特定の読者なのかで、欲しい助言はまったく変わります。
これがないと、相手との関係を考慮しない、教科書どおりの助言が返ってきます。
## 対象読者
- 新規の問い合わせ:既存顧客からの紹介が中心で、価格に敏感だが対応の速さを重視する。
- 既存顧客:現行料金を維持したい継続案件が二社ある。
- 助言は「売上の最大化」ではなく「関係を守ること」を前提にしてほしい。
基準 — どんな答え方をしてほしいのか
自分の品質基準や、文章・主張の好みを書いておきます。
これがないと、抽象的な言い回しのまま返ってきて、結局こちらで具体化し直すことになります。
## 基準
- 曖昧な表現より具体的な数字・日付を優先する(「値上げする」ではなく「新規料金を15%上げる」)。
- 既存の継続案件二社に影響する提案は、一般的な助言に混ぜず必ず個別に明示する。
完成させることを目指さない
どのメモも、長く書き込む必要はありません。上の例のように数行あれば出発点として十分ですし、空欄のまま残しておいても構いません。あとで書き直す羽目になる憶測を書くくらいなら、空欄のほうがましです。
これらのメモの役目は、完成させることではありません。次にふと浮かんだ考えの置き場所を、先に用意しておくことです。
相談のたびに、全部は渡さない
5つのノートを作ることと、5つすべてを毎回貼ることは別です。
どの行を使うか迷ったら、次の問いで選びます。
この一行を知らない有能な同僚でも、同じ助言ができるだろうか。
同じ助言ができるなら省きます。答えが変わるなら残します。
料金の相談なら、デザインの好みや長期的な執筆基準は不要かもしれません。反対に、既存二社との関係や一律値上げの失敗は、結論を変えるため必要です。
質問の前に貼る最終形は、この程度で構いません。
前提
- 目標:今期は少数の高単価案件へ移行する。
- 制約:既存二社の料金は今期中、変更しない。
- 過去の判断:一律値上げで大切な顧客を失った。同じ方法は採らない。
質問
新規顧客向けの料金を上げるなら、最初の一歩を3案出してください。
最初の1週間は、これだけでよい
5つを一日で完成させる必要はありません。
- 1日目: 5つのファイルを作り、それぞれ一行だけ書く
- 2〜3日目: 仕事中に出た省略メモを、目標・制約・決定へ一つずつ戻す
- 4日目: 実際の質問を一つ選び、答えを変える行だけを貼ってAIへ相談する
- 5日目: 採用した案、見送った案と理由、見直す条件を決定ログへ書く
- 週末: 古い行、意味の通らない行、重複した行を10分だけ見直す
成功の基準は、ノートが整って見えることではありません。一つの相談が、前回より少ない説明で、前回の続きから始まることです。
5つ揃うと、何が変わるか
相談のたびに背景を説明し直す作業がなくなります。質問の前に、この5つから関係する数行を選んで貼り付けるだけです。
渡すのはVault全体ではありません。その問いの答えを変えるだけの、最小限の文脈です。
Obsidianで実際に5ファイルを作る手順は、Obsidianを10分で設定するで説明しています。相談後の判断をどう戻すかは、AIの回答を次の判断材料へ変える方法へ進んでください。