AIへ安全に文脈を渡すための設定と匿名化
文脈を渡すと、AIの答えは自分の状況に近づきます。だからといって、Vault全体を渡してよいわけではありません。
必要なのは、答えを変える目標・制約・過去の判断です。顧客名、正確な契約金額、私信、認証情報、関係のないメモは、判断の助けにならないまま危険だけを増やします。
送信前に、分類する → 減らす → 匿名化する → チャットの設定を選ぶ、の4段階で確認します。
1. 共有範囲を3段階に分ける
相談のたびに迷わないよう、情報をあらかじめ次の3段階へ分けます。
| 区分 | 例 | 基本の扱い |
|---|---|---|
| そのまま共有できる | 一般的な目標、公開情報、回答形式の好み | 質問に関係するときだけ共有 |
| 編集すれば共有できる | 顧客の事情、金額帯、社内の判断 | 要約・匿名化して共有 |
| 共有しない | パスワード、APIキー、本人確認書類、医療情報、契約で外部共有を禁じられた情報 | 一般向けAIチャットへ入力しない |
「共有しない」は、うまく隠せば入力してよいという意味ではありません。勤務先や顧客の情報を扱う場合は、社内規定に従い、承認されたサービスだけを使ってください。
2. 匿名化の前に、情報を減らす
名前を伏せても、その情報自体が不要なら送らないほうが安全です。まず「この事実がないと、提案は変わるか」を確認します。
二人のデザインスタジオが料金を相談するとき、顧客メール全文、料金表、過去一年の取引履歴までは要りません。次の4行で足ります。
目標:今期は少数の高単価案件へ移行する。
制約:長く取引している既存二社の料金は維持する。
過去の判断:一律値上げで大切な顧客を失った。同じ方法は採らない。
質問:新規料金を最も小さなリスクで試す方法は?
短い文脈は、送信前に読み直しやすくなります。関係のない過去の情報が答えを別方向へ引っ張ることも防げます。
3. 残った情報を匿名化する
判断に必要な関係は残し、個人や組織を特定する情報を置き換えます。
変更前
Acme Dentalとは2023年から月額4,850ドルで契約している。担当のMariaから、9月の予算は凍結済みと言われた。契約更新日は10月17日。
変更後
長期取引の顧客一社とは、月額数千ドル台の継続契約がある。次回更新まで予算が確定しているため、今期中は料金を変更できない。
変更後にも、判断に必要な事実は残っています。長期顧客であること、金額が小さくないこと、今期は動かせないことです。会社名、担当者名、正確な金額と日付は外れています。
次の箇所を確認します。
- 人名、顧客名、商品名、地名
- 正確な金額、珍しい日付
- メールアドレス、電話番号、URL、口座番号
- 検索すると元文書が見つかる固有の表現
- スクリーンショット、ファイル名、コピーしたヘッダーのメタデータ
匿名化は危険を下げますが、匿名性を保証しません。珍しい事実の組み合わせから相手を特定できる場合もあります。迷ったら、さらに一般化するか、送信しないでください。
4. チャットの設定を意識して選ぶ
製品の仕様は変わるため、実際に使う前に公式情報を確認してください。
ChatGPTの一時チャット(Temporary Chat)は、履歴に表示されず、パーソナライズ用のメモリを参照・作成せず、モデル改善にも使われません。一方、OpenAIは安全上の目的でコピーを最大30日保持する場合があると説明しており、カスタム指示は適用されることがあります。[Temporary Chat FAQ](https://help.openai.com/en/articles/8914046-temporary-chat-faq)と[Memory FAQ](https://help.openai.com/en/articles/8590148-memory-in-chatgpt-faq)で現行仕様を確認できます。
ClaudeのIncognito chatは、チャット履歴やメモリへ保存されず、学習にも使われません。Anthropicによると、既定の保持期間は30日で、組織の設定がある場合はその保持方針に従います。[公式ガイド](https://support.claude.com/en/articles/12260368-use-incognito-chats)で確認できます。
これらの設定は、製品内に情報が残る範囲を小さくするためのものです。秘密情報を安全に変える機能ではありません。勤務先の規定を上書きせず、外部の連携機能が情報をどう扱うかまで保証するものでもありません。
送信前の30秒チェック
最後に、貼り付けた文章だけを読み、5つ確認します。
- すべての行に、答えを変える可能性があるか
- 名前、正確な金額、連絡先、検索できる引用を外したか
- 契約、社内規定、法律で共有を禁じられた情報がないか
- 履歴、メモリ、学習利用の設定は今回の用途に合っているか
- 事業者が示す保持期間中に保存されてもよい内容か
一つでも判断できなければ、送信せずに書き直します。
目標は、Vaultの完全な匿名版を作ることではありません。今回の判断に必要な、最小限のブリーフを作ることです。
元の材料は5つのノートへ残し、相談のたびに必要な部分だけを選んでください。